及川です。
今日はアドホックモードのお話をさせていただきたいと思います。
アドホックモードとはアクセスポイントを必要とせずに、端末間で通信を行うモードのことを言います。IEEE 802.11 では IBBS (Independent Basic Service Set) と呼ばれているものです。なお、通常のアクセスポイントを介した利用はインフラストラクチャモード(IEEE の正式用語では BSS)となります。
このワイヤレス LAN のアドホックモード、Windows でも Windows XP でワイヤレス LAN 機能が標準装備されて以来、利用できるようになっています。たとえば、会議室やホテルのロビーなど、アクセスポイントが用意できなかったり、アクセスポイントがあったとしても自分たちが利用できないような際(WEP や WPA の設定を知らないというような場合ですね)に、アドホックモードを利用して、ファイル交換などを行うことができます。
しかし、Windows XP ではこのアドホックモード、どのくらいの人が使っていたでしょうか? アドホックモードでワイヤレス LAN の通信を確立したとしても、それで確定するのは、802.11 のアソシエーションに過ぎず、上位レイヤである IP の通信が可能になることではありません。IP を利用するためには、少なくとも IP アドレスが割り当てられる必要があります。アクセスポイントも無いくらいですので、当然 DHCP サーバーが設置されていることも期待できません。
そこで利用されるのが、APIPA (Automatic Private IP Addressing) もしくは AutoIP と呼ばれる機能です。APIPA が利用できる場合、ホストは 169.254.0.0/16 の中でランダムに利用できるアドレスを自分に割り当てます。この APIPA ですが、IETF の ZEROCONF WG で議論されてきましたが、昨年に RFC 化されています(RFC 3927 Dynamic Configuration of IPv4 Link-Local Addresses)。しかし、残念ながら、この APIPA、Windows 上で利用するには、DHCP のタイムアウトを待つために標準では 63 秒ほどアドレスが割り当てられるまでかかります。また、アプリケーションとして APIPA に対応したものも残念ながら、ほとんど用意されていませんでした。
しかし、Windows Vista では、このアドホック通信が1つの有力なシナリオとして考えられています。現在、Windows Collaboration と呼ばれているアプリケーションが Windows Vista では提供される予定ですが、これは複数の PC 間で画面を共有したり、スライドショーを行ったり、ファイルを共有したりするアプリケーションです。この Windows Collaboration は People Near Me と呼ばれる機能を用いて、近隣の PC 間の接続を行っているのですが、ここで想定される利用形態としてアドホック通信があります。
People Near Me では IPv4 の APIPA に代わって、IPv6 のリンクローカルアドレスを使うことを想定しています。したがって、Windows の APIPA が抱えていたタイムアウトまで長時間待たなければいけないという制限はなくなります。また、アプリケーションも、この Windows Collaboration のような魅力的なアプリケーションがマイクロソフトのみならず、パートナーの方々からもリリースされることが期待されます。
このように、ワイヤレス LAN のアドホックモードは Windows Vista では今以上に使われることが期待されているのです。
一方、ワイヤレス LAN のアドホックモードの利用に対する日本における懸念点もあります。ご存知の方も多いと思いますが、802.11a、すなわち 5 GHz 帯ワイヤレス LAN の周波数帯域が変更されました。この変更は基本的に諸外国と同一の周波数帯域を使えるようにするということで、グローバル化の波を考えると喜ばしいことなのですが、一方で、新たに追加されたチャネルではアドホックモードの利用は禁止されています。したがって、802.11a の場合、利用者の方がご自身で利用するチャネルを適切に設定しないと、アドホックモードは利用できないのです。Windows 自身はワイヤレス LAN のチャネル変更は標準ではサポートしていませんので、デバイスごとに依存した操作となり、一般の利用者の方には非常に敷居の高い操作となっています。また、ワイヤレス LAN 機器の中にはアドホックモードをサポートしないものもいくつかあるようです。これもまた、アドホックモード普及の阻害要因となるでしょう。
以上のように、いくつか懸念材料はありますが、携帯ゲーム機の世界では、ワイヤレス LAN のアドホックモードを使った新しいゲームが登場したように、PC の世界でも、従来のワイヤレス LAN とは違う使い方が広まるのではないかと期待しています。
参考資料: 「5 GHz 帯無線 LAN の周波数変更」に関するガイドライン制定について?(← JEITA で作成されたガイドラインです。私も委員として参加しました)
P.S. アドホックネットワークと言った場合、IP のレベルで、中継局の無い状態で経路情報を交換することを想定したMANET (Mobile Ad hoc Network) もあります。これは、たとえば、アクセスポイントの無い状況で、直接電波が届かないような環境でも、ほかの端末を経由してパケットを交換するようなことを実現するものです。今回、お話したアドホックモードは、そこまでの話ではなく、802.11 レベルでアクセスポイントが不在の環境で通信するための話です。
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